特集

「アワガミ和紙 × 魚住誠一」


 

 昨今日本でも注目を集め始めたファインアートプリントの世界。特に”プリント”はアートに直結する部分ということから用紙選びにこだわっているアーティストも少なくない。中でも和紙は独特のテクスチャー(風合い)が海外のアーティストからも注目されている。そこで今回は、“ポートレートと和紙”というテーマで、アワガミファクトリー東京企画室の工藤多美子氏(セールス・プロモーション)との対談を行った。以前からアワガミの和紙を好んで使ってきた魚住誠一待望の対談でもある。
 

■この用紙をモノにできたら、他の人とは違う次元で戦えると感じた 

:実はアワガミさんとの出会いはサンプルの用紙を送ってもらったことからなんです。以前から日本で手に入る用紙には全部プリントしてみようと考えていて、キャンソンやハーネミューレといった海外の用紙はもちろんキヤノンやエプソンの新しい用紙が出たら買って、まずはテストプリントしてみるということを繰り返していました。そんな中で和紙も気になり出したんです。当時いろいろ探していたんですが量販店の店頭には置いてなくて。それで電話して送ってもらったっていうのがアワガミを使った最初です。
:プリントしてみた最初の印象はどうでした?
:当時はエプソンのベルベットファインアートペーパーを好んで使っていたんですが、和紙は黒の出方とかシャドーの締まり具合が全然違う。これは扱いの難しい用紙だなと思いましたよ(笑)。でもそこが和紙の魅力でもある。インクが滲んでいくよさっていうか、どこまでインクを受け止めてくれるのかっていう紙の特性がおもしろいと感じました。
:同じインクジェット用紙でも光沢紙とは全く違いますからね。
:でもこんなにクセのある用紙なんだから、モノにできたら”他の写真家とは違う次元で戦える何か”が手に入れられんじゃないかと感じました。ところでアワガミファクトリーさんってインクジェット用紙だけを作っているわけじゃないですよね。
:はい、もともと弊社は版画用の紙を供給しています。ところが最近、版画の作家さんの中にもインクジェットプリンターを使うような方が出てくるようになって、そうした版画の作家さんから要望もあってプリンター向けの用紙を作ってみることにしたんです。そうするうちにデジタルプリントが普及してきて、写真家さんからも注目されるようになりました。 今ではこの用紙の8割が写真プリントに使われています。
:海外からもけっこう注文があるんでしょ?海外にもテクスチャーのある用紙はいろいろあって価格も安いんだけど、使い物にならないものも多いから。
:ええ、海外では競合メーカーが少ないということもあって、販売数は欧米を中心に緩やかではありますが着実に伸びています。
:私は”いんべ”や”竹和紙”が好きなんですけど、海外ではどの用紙が人気ですか?
: 繊維をある程度残した”雲流”が和紙と分かりやすいようです。ただ繊維が絵柄を邪魔するようなこともあるみたいですね。かと言って繊維感がおとなしいと和紙だと分かりづらいということがあるようです。
:多くの人が誤解しているみたいだけど、和紙の表面もちゃんとコーティングされているんですよね?
:はい、コーティングによって風合いの違いを出しています。
:そうすると和紙自体は中性紙だけどコーティングによって酸性になったりアルカリ性になったりすることもあるってこと?
: そうですね、私たちでは中性になるようなコーティングを選んでいます。

 

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