■2人の出会い
魚:最初の出会いは第1回のポートレート専科-2007-の会場でしたね。
常:共通の友人がいて、その方が魚住さん主催の写真展に出るって言うので、展示について軽くアドバイスなんかをしてたんですけど、そもそもボクもどういう写真展なのか知らなかったんで、見にいったんですよ。
魚:顔を知らなかったんでロクに挨拶もできず、あとから友人を通じて常盤さんが来てくれてたって聞いて「エー!」って感じですね(笑)
常:あの時は魚住さんも初開催だったからかなりテンパッてましたもんね。
魚:それで翌年第2回をやろうってタイミングで、テラウチさんや萩庭さんに声を掛けたあとに、もう1人と思って常盤さんにお願いをしたんですね。みんなカメラマンだけどまったく違うベクトルのこの4人がやったらなにか面白い化学反応が起こるんじゃないかなと。異種格闘技みたいで(笑)
常:最初電話掛かってきた時は「なんの電話だろう」って思いました。ボクもそういうのに誘われたコトがなかったのですごくビックリしましたね。
■デザイナーからカメラマンへ
魚:そもそもどうしてカメラマンに?
常:それまでずっとCDジャケットや映画のポスターのデザインをやっていたんですけど、1997年に初めてブックデザインの仕事がきたんですね。それが純文学の小説:阿部和重「インディヴィジュアル・プロジェクション」(新潮社)だったんですけど、それを見た時に「これ、表紙は写真にしたいな」ってピンときたんですね。いまでは当たり前のように小説の表紙に写真を使いますけど、当時はあり得なかったんですね、本のイメージが限定されてしまうので。とはいえ、それこそ「目立つな、これは」。書店の小説コーナーにポンと写真の表紙がある、これはすごく目立つ。すぐに作家本人に電話して「作家として立派な表紙がいいか、書店で目立って売れそうな表紙がいいか」って聞いたら即答で「売れそうなやつ」って言われて(笑)大抵アートディレクションするときってコンテ/ラフを書いてカメラマンの方と打合せするんですけど、その時すでにはっきりイメージが頭にあったんですね、ただ出版社に聞いたらカメラマンの予算がないって言われて。予算ない、でもはっきりとイメージはある。これもったいないなぁと思っていて「じゃあ撮ってみるかな」って思ったんですよ(笑)でも当時カメラなんてもってないし。この仕事のギャラがカメラに変わってもいいかなって軽い気持ちで。実際自分で撮ってみて失敗したらなかったことにして、普通にデザインでやればいいやぐらいの。
魚:表現したい手段がたまたま写真だったってことですね。常:それこそこの撮影の日にカメラ買ったんです。モデルと待ち合わせた高円寺の駅前のサクラヤで買って、現場で箱から開けて(笑)もちろんモデルなんて撮るの初めてだったし、今思えばよくやったなと思いますよ。
魚:小説の内容、それに対して常盤さんのイメージは?
常:その小説は渋谷っぽい話なんですけど男性が主人公で、女性がそんな出て来ないんですよ。だから女性にしたんです。もし男性にしたら主人公のイメージにぶつかってしまうので、女性を主人公にした全然違うけど似たニオイのあるストーリーをブックカバーにしようと思ったんですね。そうすれば小説とはぶつからないけど、でもなんかそのモヤモヤとした小説のニオイだけは表現できるんじゃないかと思って。
魚:モデルのキャスティングやイメージは?
常:周りに元モデルとかおしゃれなカフェで働いてるみたいな子はいたんですけど、そういう子をレコード屋で撮っても普通といえば普通じゃないですか、だからそうじゃなくてなんか”ハスッパな感じ”で、やたらスタイルがいい子っているじゃないですか。そういう感じの子にあえてX-girlみたいな洋服を着させて、なんかありそうでないものにしたかったんです。
魚:フォトグラファーデビューという感じではないですよね。
常:アートディレクションとして仕事を受けて、自分のイメージどおりにモノを置いてスキャンしたって感じです。